世界基準の良質なカカオとは?

August 5, 2022

 
 
 

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美味しいチョコレートづくりに欠かせない
素材、製法、そしてアイデア。
3つのなかでも鍵となるのは、素材。
すなわち、良質なカカオだ。

カカオラバーズたちは、
より希少な素材を求め、
ジャングルの奥地に足を踏み入れる。

彼らが追い求めるカカオ豆の
“良質さ”とは何だろう。
世界的な基準はあるのか?
そもそも、
誰が良し悪しを決めているのだろうか?

“良質なカカオ”とは、いかなるものか。それを教えてくれたのは、green bean to bar CHOCOLATEのアドバイザーを務めるクロエ ドゥートレ・ルセールさん。

カカオとチョコレートの世界におけるコンサルタント、教育家として35年のキャリアを持つ彼女。カカオの研究機関HCP (Heirloom Cacao Preservation) のテイスティングチームにも所属しており、言うなれば、カカオのプロフェッショナルだ。

「ファインチョコレート産業において、優良なカカオのプロモーションやディストリビューションを手助けしている『HCP』という研究機関があります。世界中から最高のカカオを見つけだし、保護しながら増やしていくのが主な活動。ここで言う『最高のカカオ』の基準は、ズバリ味の良し悪し。選ばれたカカオは、その後HCPによって分析され、その美味しさの理由について、遺伝的な研究が進められるのです」

良質なカカオの基準が“味”という、ともすれば主観的であることは、近年のビーントゥバームーブメントの広がりが影響している。

「少なくともこの50年間、主要なカカオ研究所は効率的で病気に強い品種を作ることに重きを置いてきました。それらの良し悪しは味で決まるわけではなく、1ヘクタールあたりどれだけの実をつけるかでした。しかし、近年ビーントゥバーのムーブメントが広がり、世界中のチョコレートメーカーが優れた味を求めるようになったのを受けて、研究者たちもようやくテイスティングを始めた。つまり味が重要視されるようになったのは、ごく最近のこと」

「渋くないか、アンモニアや生ごみのような悪臭はしないか、カビっぽくないか。それら、カカオにありがちな欠陥がないこと。また、芳香が複雑かつ優雅で、風味の持続性があることも、同じように重要です」

ただし、いくらカカオの質が高くても、ポテンシャルを最大限に引き出すことができるかどうかは、生産者の手にかかっているという。

「とくに、美味しいチョコレートを作る鍵は、発酵過程にあります。優秀なカカオ農家は、均一な発酵や乾燥のために投資し、品質をつぶさにチェックし選別している。つまり、欠陥のないポテンシャルに加え、管理の行き届いた“カスタマーサービス”こそが、カカオの良質さの証なのです」

 
 

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Vol.115

第4のカカオ
「Nacional」はどこに

100年前、エクアドルで絶滅したカカオ “Nacional“ 、その遺伝子の謎を追う。

アメリカ大陸における遺跡や初期のヨーロッパ人の記述から、1600年代初頭にはエクアドルでカカオが栽培されていたことが分かっている。

その後、あるスイス人旅行者が、その独特の香りを持つカカオの原産地について尋ねたところ、「デ・リオ・アリバ」、つまり「川の上流から来た」と言われたそうだ。

このカカオの名前が “Nacional“ 。
17世紀から18世紀にかけて、高いフルーツのトーンと珍しい花の香りを持つ Nacional は、その高級で独特の風味が高く評価され、エクアドル原産の伝統的なカカオと言えば、Nacional ブランドを意味するようになった。

その後、エクアドルは世界一のカカオ生産国にまで上りつめることとなる。

一般的にカカオの品種は3種類(クリオロ、トリニタリオ、フォラステロ)と言われているが、実はこのどこにも属さずに4番目の品種に当たるのが “Nacional“ なのだ。

しかし、エクアドルに1890年頃から外国品種の導入が始まると、これがきっかけとなり、1900年代には、伝染病が国全体のカカオ農園を襲い、カカオが全滅する事態に陥る。そして、エクアドルの農園もほぼ全滅に。

この恐ろしい伝染病は、

・Moniliophthora perniciosa
・ウィッチ・ブルーム(魔女のほうき)

その後、エクアドルは国を挙げて、Nacional の復活を試みるが上手くいかず、品種改良や交配によって元の Nacional に近づけようとした。

現在マーケットで売られている Nacional は、実はオリジナルではなく、70%まで復元されたクローンなのだ。

カカオのトップブランドとなった Nacional は、世界市場でも高値で取り引きされている。
現代のマーケティングやブランディングによって、「Pure Nacional」は、エキゾチックな商品名となっているが、もはや遺伝子型や明確な地理的エリアを示すものではなくなってしまっている。

研究室で作られたクローンによって、常に普遍的な味を出すNacionalの新種CCN-51は、エクアドルのカカオ産業を大きく復興させたが、その代償としてカカオの品質は落ちてしまったのである。

エクアドルにとって “Pure Nacional“ は、日本で言う所の “コシヒカリ“。
世界中で、Pure National と書かれたチョコレートが、たくさん売られているが、これがクローンで出来ている。

ここにもまた、マーケティングの世界が……。

伝染病が急速に広まった原因は、Nacional を「守る」ために、外国から持ち込まれた耐病性品種が導入されたのが、きっかけになったのだから皮肉な話だ。

場所は変わって、ペルー。

2010年、カカオの販売を生業としていたアメリカ人のダン・ピアソンは、ペルーの山間部マラノン キャニオンでカカオ農家の農夫から、クオリティの高いカカオがあるから、一度でいいから来てくれ、と頼まれ半信半疑そのカカオを試してみる。

すると、味は独特なスミレやライラックの花、オレンジやハーブ、イチジクや、時々スパイスを感じる素晴らしい豆であることに驚く。

彼は、そのカカオに不思議な魅力を感じたので、カカオの木を見せてもらった。味はもちろんだが、ポッドの形や匂い、葉の色づきなどを確認すると、ますますこの正体不明のカカオが気になり、もう少し深く調べてみることにした。

知人のいる米国農務省へ連絡すると、材料移転協定を結ぶ運びとなり、メリーランド州ベルツビルの研究所に、このカカオの葉のサンプルを無作為に送り、遺伝子検査を行うこととなった。

野生のカカオの保護戦略を専門としている Dapeng Zhang 博士は、この件の主席遺伝学者である。数ヵ月後、チームの一員であるリンデル・マインハート博士から、ピアソンに興奮した声で結果の連絡が入る。

「ここにあるのは、100%純粋な Nacional です。1916年のエクアドルより前のオリジナルと全く同じもの、絶滅したと思われるものだと確認されました!」

伝染病で絶滅したカカオ、エクアドルにしか存在しないと思われていた Nacional が、ペルーで存在していた。しかも偶然、いわば事故的に発見されたのだ。

これは、自然地理学が国境を越えることを証明したものでもある。
オリジナルの Nacional がペルーで発見された。
エクアドルのPure Nacional は、どうなるのか?

次に行くべきは、マラノンキャニオン、ペルーだ!

 
 
 
 

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